今年5月発行の「週刊社会保障」に執筆した記事です。
Q:先月、相談者(36歳)の夫は闘病の末、国民年金被保険者のまま38歳で亡くなった。3歳の娘がいるため、年金事務所では遺族基礎年金を受給できると言われている。
亡夫は22歳から会社員となり、28歳で発症、初診。7年前、療養のため退職したが9年間は厚生年金の加入期間がある。
それなのに、遺族厚生年金のほうは、現時点では受けられないと説明を受けた。「現時点では」というのは、亡くなる数日前、障害厚生年金を請求しており結果が出ていないかららしい。
「受給が確実でないのはなぜなのか」という相談である。
A:遺族が遺族厚生を受けられるととは限らない。
存命中に障害厚生の受給権取得を
現時点で受給できる年金は、遺族基礎年金のみで、年間約102万円(80万円+子の加算23万円。千の位で四捨五入のため合計額と不一致)、月約9万円。
もし、遺族厚生年金を受けられるなら、年間約72万円(49万円+配偶者の加給年金23万円)が加算され、合計約174万円、月約15万円となる。
さらに、娘が高校を卒業すると、遺族基礎年金は失権、年間約60万円の中高齢寡婦加算に替わる。遺族厚生年金とともに65歳になるまで合計で年間約131万円、月約11万円受け取れる。
厚生年金保険に加入中の死亡以外の死亡者の要件は、①厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内の死亡、②1級、2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている人の死亡、③保険料納付済期間、免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人の死亡、の3つである。なお、厚生年金加入中の死亡、および①は、保険料の納付要件を満たすことも必要となる。
上記から、相談者の夫の要件を検討する。①は、初診日が10年前にあるため該当しない。②は、障害厚生年金の支給が決まれば、死亡時に遡り受給権が発生、該当する可能性がある。③は、20歳から加入しているとのこと、死亡時まで18年間しかなく、未納、未加入がなかったとしても該当しない。
唯一可能性のある②だが、仮に障害等級3級で決定しても、直接死因の傷病と障害厚生年金の傷病に相当因果関係があると認められ、死亡時において障害等級1級または2級の状態にあることが確認できれば支給される。
遺族は、「過去、厚生年金の加入があれば、遺族厚生年金を受給できるのは当然」と考えていることが少なくない。ところが、45歳未満の死亡では、多くは初めて国民年金に加入するのが20歳であり、③の受給資格25年以上を満たせない。よって、存命中の対策は、死亡時期を操作できない①を除き、②の条件だけでも満たしておくことが重要である。
さらに、厚生年金の加入期間が20年未満も多いと思われるが、①②に該当すれば、年金額は300月みなしで計算、かつ中高齢寡婦加算も支給、と給付が手厚い。
このように、若くして闘病し、厚生年金被保険者の資格を失っている場合、障害厚生の受給権を得ておくことは意義が大きい。自身亡き後を見据えた、家族のための生活防衛にもなっているからである。
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