診断書の作成は医師に頼りきりにしない

紅葉の便りを聞くようになりました。

さて今回は、先日お世話になっている(株)エフピー研究所のメルマガに掲載したコラムを載せます。

■障害年金とは

障害年金は、病気やけが、障がいによって生活を送ることや働くことに支障をきたすようになった人が、療養に専念できるよう生活を保障する国の制度です。条件を満たせば20歳から受給でき、2020年度で受給者は226万人で人口の2%弱。近年、国が制度の広報に努めていることもあり増加傾向であるものの、対象になることに気づかれないことがまだ多く、受給者数は少ないといわれています。

 

■審査は書類のみで客観性が重視

障害年金は、老齢年金や遺族年金に比べ周到な準備が必要で、これをせずに臨むと不支給になることも珍しくない給付です。初診日の証明ができること、保険料の納付要件を満たしていることに加え、傷病の経過や状態をみられる個別性の高い審査を受けます。「経済的に苦しい」など、情に訴えた申立書を出しても審査で有利になることはありません。厳しい客観性に基づき支給、不支給が決まり、審査方法は書類確認のみ。なかでも診断書が決定の肝(きも)になります。

 

準備なく取り組むのはとても危険です。不支給になっても、65歳になるまでなら何度でも再請求できますが、前回の誤った書類――たとえば、日常生活での動作が「できる」ばかりの実際と異なる診断書――は年金機構に残っています。前回と比べ、これといった病状変化がないのに診断書だけ重症に変わるのは、突っ込みどころ満載になっています。なぜ再請求の今回重症になったのか、審査員たちが納得できる理由がないと支給されません。前回の書類が決定の足かせとなるのです。

 

そのため、最初から診断書が適切に作成されるよう、慎重に事に当たる必要があります。医師の協力は不可欠で、“障害年金の診断書の書き方”を理解してもらい、そのうえで作成してもらうことが大切。ところが、不支給に繋がるような記入誤りは少なくありません。

 

今回は、受給者の約2割を占める「肢体の障害」診断書が、医師だけで作成される場合※に生じがちな問題を解説します。なお、診断書の作成者は、その傷病を診ている医師なら可能です。法律に基づく指定を受けた医師でないと作成できない「身体障害者手帳」とは異なります。

 ※理学療法士が動作を確認したうえで医師が作成することもあります

 

■事例

次は実際に遭遇した話を基にした事例です。

<思い込みで記入する医師>

  免疫異常の病気で歩行などに不自由が表れることがあります。主治医は神経内科となりますが、障害者手帳の診断書を書き慣れている整形外科などと違い、「ひもを結ぶ」「階段を上る」などできるかどうか、本人に動いてもらって記入する習慣がないと感じます。

たとえば、平衡感覚の異常で物につかまらないと歩行が難しくても、受診時の本人がしっかり受け答えできるイメージからか、歩行に異常なしの診断書が出来上がったことも。他の項目も実際と大きく異なる軽症となっており、そのまま提出すれば不支給になることは明らかでした。次の受診で訂正してもらい、ようやく2級の支給決定を得られたことがあります。 

<患者の主観を聞くだけの医師>

  脳卒中が原因で片側まひとなったことは、本人にとって突然なことで受け入れ難かったといいます。新たな主治医が診断書の項目に沿ってできるかどうか質問すると、本人は不自由さを認められず「頑張ればできます」と回答することが多かったとのこと。医師は動きを見ることなく、本人が言うままを書いてしまいました。

診断書の出来上がり後、請求代理の委任を受けました。動作と診断書の内容には大きな差があり、診断書は実際より軽症で等級に当てはまらない内容でした。後日、医師と面談し本人が動いて見せ、実態に合った内容に書き直してもらうことに。時間はかかりましたが、後日、無事に2級の年金証書が届きました。

  

■生じている問題

事例から、目視での確認という手順を踏まず、診断書が出来上がってしまうことがあるのがわかります。医師は、書類作成に時間を割けないほど多忙といえるのかもしれません。

 

さらに、肢体の診断書では、日常生活で補助用具なしの状態、かつ実用性ある動作ができるかどうかの記入が求められます。ポイントとなるのは、裏面の「日常生活における動作の障害の程度」。この欄で、上下肢の日常生活の場面で行う複数の動作を、一人で「うまくできる」「できてもやや不自由」「できるが非常に不自由」「全くできない」、の4段階で評価してもらいます。医師が見落としがちなのは、「補助用具を使用しない状態」での記入を求められていることです。

 

たとえば、まひで足首が不安定だと、歩行時は補装具で固定する必要があります。さらに日常的に杖を使っているなら、これらがないと歩行は「非常に不自由」か「全くできない」といえるはず。補装具と杖があり「うまくできる」「やや不自由」で記入されてしまうと誤りになるのですが、これら用具を使った状態を記入する医師は少なくありません。

 

また、動作に実用性があるかどうかについては、瞬間的にできる動作は実用性に乏しく「非常に不自由」か「全くできない」が正しい記入内容となります。ところが、一瞬できた動作も「できる」と判断されることも。

 

加えて、本人側の問題は、出来上がった診断書の誤りに気づきにくいことです。「状態をわかってくれている先生」という先入観も邪魔するのでしょう。日本年金機構ホームページなどで公開されている『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』はあるものの、この存在を知らない人もいます。また、知っていてもよく読む人は少数かもしれません。医学的な用語や言い回しで記述される認定基準は、一般の人には読みづらいためです。

 

こうして、診断書の内容を確認せず提出し、不支給になってしまうことも少なくないのでは、と考えています。多くは、「それほど重症でなかったのだろう」と原因追及していないのではないでしょうか。しかし、記入のしかたが間違っていただけかもしれません。

 

■まとめ

対策は、医師に依頼する前にポイントを年金事務所などで確認し、十分に準備するしかありません。本人や家族が対策を講じるのが難しい場合は、障害年金の請求代理を掲げる社会保険労務士に依頼するのも手です。

 

条件付き記入を求める障害年金の診断書は、医師にとっては独特で手間のかかるもの。記入間違いが起こりやすい書類であることと心得て取り組むことがとても大切です。

 

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