コロナ感染中の賃金対応

IT業A社(創業20年・社員20名)に勤める古参社員B男にまつわるコロナ隔離期間中の賃金の支払いに関するトラブルです。

 

B男は、同居家族のコロナ感染のため自主的に自宅隔離しているさなか、自身も感染し、保健所から10日間の隔離指示を受けました。

A社ではワクチンの接種休暇規程はありましたが、コロナ感染時の隔離に関する取扱いまでは定めていませんでした。隔離後出勤したB男は、人事担当C子に今回の欠勤に対する扱いを確認しました。

すると、会社の指示による休業ではなく、会社側に責任ある事態でないため、有給休暇の取得を勧められました。この提案に対しB男は、「大手企業に勤務する同居の家族は、通常の出勤扱いとされた。何か手立てはないものか」と主張したため、C子は、後日回答すると伝え、その場は収めました。

出勤扱いとすることも検討されましたが、コロナの収束が見えない中で今後も様々なケースが生じることが想定されます。やはり、有給休暇を取るよう次のとおり伝えました。

 

 ➀同居家族の感染による自主隔離中に自身も感染し、保健所からの隔離指示に至っており、会社側の落ち度による感染とは異なると考えられ、会社の責任とは言いきれないこと。

 

 …会社の責任、つまり使用者の責に帰すべき事由による休業とは、「会社都合」で休ませる場合で、事業主の故意や過失だけでなく、経営上や管理上の要因に起因するものを含むと解されます。一方、天災事変のような不可抗力によるもの、近年では東日本大震災や計画停電のように、経営者が最大の努力を尽くしても企業努力だけでは回避できないような場合は、休業手当の支払い義務は生じないとされています。

 

②仮に会社の都合で自宅隔離指示を行った場合であっても、就業規則の定めでは労働基準法上の休業補償にあたり、平均賃金の60%の支給で足り、今回のケースでは、有給取得のほうが有利となること。

 

…労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定めています。

 

③今回の休業に対し支給される給付金はあるが、社員が主体となって申請する制度であり、複雑な申請行為はB男にとって負担となること。

 

…「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」は、新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止の措置の影響により休業させられた労働者のうち、休業手当の支払いを受けることができなかった人に対し、当該労働者の申請により支給し、会社は社員の申請行為に協力するものとされています。支給日額は、平均賃金の8割とされていますが、令和4年1月1日から同年6月30日までの上限額は8,265円です。

 

B男は、資料に基づき説明を受けたところ、後日、家族からも諭された様子で、有給休暇の取得を受け入れました。

 

A社は、同業他社より、社長や経営陣が優しく給料も高く、労働環境の良い会社にあたります。このような会社は、優秀な人材が集まる一方で、社員が会社に期待し過ぎることでトラブルにつながる傾向にあります。今回のケースでは、コロナ禍で蓄積されたストレスにより、会社への過度な要求につながったのでしょう。

 

 

今後もコロナ関連の検討課題が生じると思われます。会社が、都度、真摯な姿勢で対応することで、社員から寄せられる信頼は厚くなっていきます。

 

 

第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2022年7月号』拙著コラムより転載