コンサル会社(社員25名・創業15年)での出来事です。
「2年前に採用した社員A男(52歳)だが、仕事が遅くやる気があるのだろうか等と、取引先や他社員からクレームが入っている。出来れば、自主的に辞めてもらいたいところだが、配置転換などで雇用維持を図るしかない。何か良い手立てはないものだろうか。」とのことでした。
状況を整理すると、
⑴A男には仕事への意欲が少なく簡単な作業しか任せられないため、出勤日の半分以上は仕事がない。
⑵空き時間を活用し資格試験を受けるように指示しているが受験しない。
⑶上司が個別に指導を行っているが、改善が見られない。
早速、社長と直属の課長とで打開策の検討に入りました。課長によると、1年に渡り仕事に取組む姿勢や業務の進め方について個別指導してきた。しかし、一向に改善の兆しが見られず、どのように対応してよいものかほとほと参っている様子でした。
まず、課長が正確にA男の仕事ぶりを把握するとともに、本人にも自身の仕事ぶりに向き合ってもらうため、日報を提出させることにしました。毎勤務終了後、課長が内容を確認のうえ返信します。課長は、膨大な業務を抱える中で、手間を要するA男との日報上での対話には後ろ向きでしたが、社長が共に取り組むことで渋々承諾しました。
日報指導では、次の点をポイントとしました。
➀日報の時間帯を細かく分け、各業務の所要時間を記入する。
⇒1時間単位での記入により、空白時間が多く業務効率が低いことに気付かせる。
➁訪問先や電話先の会社名と担当者名、具体的な内容を記載する。
⇒誤魔化しやウソは通用しない。
③A男を改善させたいという誠実な気持ちで向き合う。
⇒退職させることは目的とせず、あくまでも本人の自覚を促し業務改善を目指す。
1週間が経過しました。日報には空白が多い、簡単なメール送信にも1時間以上を要する、週に何度も同じ取引先に訪問している割には売上に繋がらない、などの勤務実態が明らかとなりました。課長は、日報の各項目ごとに添削して返信し、高業績社員の日報見本を添付しコメントを添えるなど根気強く指導を続けました。
その後、突然、A男が退職届を提出しました。日報を通して、A男自身の勤務実態が明らかとなり、これ以上会社にいられないと判断したようです。
働かない社員が更生しない、退職しない、などの問題社員を抱える中小企業の特徴には、社長が優しい、給与水準が他社に比べて高い、有給休暇が取り易い、などがあります。働かない社員は、楽で居心地がよい現状を変えたくないのが本音です。
企業の多くは、こうした社員と向き合うのは面倒なので、自宅待機や閑職に配置転換するなど排除に向かいますが得策ではありません。賃金という対価を支払う以上は、賃金額に見合う分を働いてもらえるような指導体制が必要です。時間はかかりますが、更生するか、自主退職するか、結論が出るでしょう。
いずれにしても、このような社員との対話では、書面・対面を併用しながら、改善してもらいたい気持ちを持ち続け、丁寧に、根気よく向き合うことが必要だと感じる出来事でした。
第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2021年12月号』拙著コラムより転載